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東京高等裁判所 昭和32年(行ナ)34号 判決

原告 株式会社内野商店

被告 特許庁長官

主文

昭和三十年抗告審判第一五七号事件について、特許庁が昭和三十二年六月二十六日にした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

一、原告は、昭和二十九年二月十二日別紙目録記載のように、「Mode Robe」の文字で構成されている原告の商標について、第三十六類ナイトガウンを指定商品として登録を出願したところ(昭和二十九年商標登録願第三、三二二号事件)、同年十二月十日拒絶査定を受けたので、これに対し昭和三十年一月二十一日抗告審判を請求したが(昭和三十年抗告審判第一五七号事件)、特許庁は、昭和三十二年六月二十六日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は同年七月九日原告に送達された。

二、右審決は、原告の出願にかゝる商標は、「モードローブ」の称呼及び観念を有すると認定した上、次の理由により、商標法第一条第二項に規定するいわゆる特別顕著の要件を具備しないものとしている。すなわち「Mode」は「今様」「今ばやり」の意味を有し、「Robe」は「外袍」「外被」「寛やかな衣服」或いは衣服一般を指称するものであることは、英和辞典を繙くまでもなく英語知識の普及している一般社会の常識をもつても容易に理解し得るところというのを相当とする。また本願商標の指定商品である「ナイトガウン」は、「寝衣」「寝巻として用いられる寛服」であることも世人一般の知悉しているところといわねばならぬ。よつて普通に用いられる書体の文字をもつて表わし、単に「今ばやりの衣服」或いは「今様の寛服」というような観念を有する本願商標を、その指定商品「ナイトガウン」に用いても、これは「ナイトガウン」を含めて衣服一般についての普通名称、強いていえば宣伝的に品質、スタイル等を表わす形容詞を付した商品の普通名称を示しているに過ぎないものであり、結局自他商品の識別の標識としての本願商標は、特別顕著の要件を具備していないものと認めざるを得ず。」としている。

三、しかしながら審決は、次の理由により違法であつて、取り消されるべきものである。

(一)本件出願の商標は、その構成上敏速を貴ぶ本件指定商品の商取引から、「Mode」が「今様」「今ばやり」の意味を有し、「Robe」が「外袍」「外被」「寛やかな衣服」或いは衣服一般を指称するものとは受取らないし、又は現実でも受取つていない。需要者の一般においても同様であるから、この認定は商取引の実験則に合致しない。

本件の指定商品「ナイトガウン」は、「寝巻の上に用いられる着服」であつて、「寝巻」又は「寝巻として用いちれる寛服」ではないから、世人一般が、本件指定商品を「寝巻」又は「寝巻として用いられる寛服」、本件出願商標を「今ばやりの衣服」又は「今様の寛服」と観念する筈はない。従つて本件指定商品「ナイトガウン」は、単に「ナイトガウン」と称し、「モードローブ」とは普通表わさないから、本件商標「モードローブ」が指定商品「ナイトガウン」及びこれを含んだ一般の衣服の普通名称又は宣伝的に品質、スタイル等を表わす形容詞を附した商品の普通名称であるとする認定は誤つている。

(二)  原告は東京都中央区横山町に店舖を有し、昭和二十七年以来本件出願の商標を、商品「ナイトガウン」について使用し、同商品は全国各地における著名の百貨店及び主要な卸専門店に販売され、「モードローブ」といえば、本件登録出願前すでに、原告の商品「ナイトガウン」であると観念されるほど取引者及び需要者の間にあつて著名となつていたものである。従つて仮りに本件出願商標が、その商品の普通知称であつても、永年の使用によつて顕著性を取得し、登録すべきものといわなければならない。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の請求原因に対し、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実はこれを認める。

二、同三の主張はこれを争う。

(一)  本件出願商標中、「モード」は英語の「Mode」を表わし、「ローブ」は英語の「Robe」を表わしていることはその構成からみて明らかであるが、「モード」なる語は、今日わが国の社会一般には日本語化した外来語として親しみ深いものであり、殊に服装、服飾関係には、日常普通に用いられていることは顕著なものである。また「ローブ」なる語は、「長衣の寛服」、「礼服」更に「衣服一般」を表わすものであるが、本件出願商標の指定商品「ナイトガウン」等の服装、衣料関係の一般取引者及び「ナイトガウン」の使用者には、その意味するところは、容易に理解されるものというべきである。

本件出願商標の指定商品「ナイトガウン」は、要するに「寝間着」であつて、その形状、様式からみて、更に前述のとおり「ローブ」が衣服一般を意味するところから、親しみ深い外来語「モード」と「ローブ」とを単に羅列してなる本件出願商標は、「ナイトガウン」をも含めた商品の普通名称を表わしたに過ぎないものと解するのを相当とする。

(二)  本件出願商標の使用による顕著性の点について、原告は特許庁における審査の段階においても、抗告審判においても、何等の主張立証をもしていないから、この点について審決が触れていないことは何等違法はない。なお、元来行政事件訴訟特例法による訴訟は、特定の行政処分の違法なりや否やを審査するものであるから、抗告審判に証拠方法として提出されず、従つて抗告審判の審理に供されなかつた新たなる証拠方法を裁判所へ提出しても、裁判所においては、本件抗告審判の審決が違法なりや否やを判断する資料としては採択せられるべきではない。

第四証拠〈省略〉

理由

一、原告主張の請求原因一及び二の各事実は、当事者間に争がない。

二、右当事者間に争のない事実及びその成立に争のない甲第一号証の一、二によれば、原告の登録出願にかゝる本件商標は別級記紙のとおり「Mode Robe」の欧文字を横書にし、その下部に「モード・ローブ」の文字を左横書にして構成された第三十六類ナイトガウンを指定商品としているものであり、審決は、右商標は指定商品を含めて衣服一般についての普通名称、強いていえば、品質、スタイル等を表わす形容詞を付した商品の普通名称を示しているもので、商標法第一条第二項にいわゆる特別顕著性を欠くものとしている。

よつて原告の出願にかゝる右の商標が、いわゆる特別顕著性を有するものであるかどうかについて判断するに、原告の商標を構成する「Modeモード」の語が「流行」の意味を有する英、仏語であり、また「Robeローブ」が「衣服」の意味を有する英、仏語であることは、当裁判所にも明白なところであり、これらの言葉は、これを一つ一つとしてみるときは、指定商品「ナイトガウン」(一般には寝衣の上に着る部屋着をいい、当裁判所が真正に成立したと認める甲第三号証によれば、原告はこれを「部屋着兼用のタオルの寝巻」について使用していることが認められる。)について使用すれば、前者は「流行している」等の当該商品のありふれた特長を、また後者は「被服」等のこれを包括する商品の普通名称を表わしており、これによつては自他商品の識別を表わすことはできないかも知れない(ことに後者によつては識別をすることができないであろう。)。しかしながら、これら二語が、本件指定商品についてはもとより、被服一般についても、その特長普通名称を表わすものとして、本件商標のように組み合されて使用されているものであることを知るに足りる資料は全然存しないばかりでなく、これらの言葉が、このような組み合せにおいて使用されることは、日常極めて稀なことであろうと解せられるから、これを本件のように結合して使用した場合には、これを付した商品を他の商品と識別することは十分可能であるものと解せられ、このことは前述の甲第三号証及び当裁判所が真正に成立したと認める甲第四号証の各証によつても、これを推認するに決して難くはない。

三、してみれば以上判断と反対の結論に出でた審決は、その余の点に対する判断をまたず取り消すべきものと認めるから、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 入山実)

本件出願商標〈省略〉

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